風、薫る

看仏連携

NHKの朝ドラ好きなごえんさんです。
特に第88作「あまちゃん」、第94作「とと姉ちゃん」、第105作「カムカムエヴリバデイ」、第110作「虎に翼」などがお気に入り。
そんな私の注目が今回の第114作「風、薫る」です。

番組紹介には「主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた二人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う― 明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな二人のナースの冒険物語です。」(NHK番組HPより)とあります。

そんな「風、薫る」の第24回にこんなシーンがありました。
看護実習生として西洋の看護学を学ぶダブルヒロインのりんと直美がフローレンス・ナイチンゲールの「看護覚え書」(Notes on Nursing)』に書かれた“Observe(オブザーブ)”という言葉をどう日本語に訳すべきか悩む場面です。

近代看護の母として知られる フローレンス・ナイチンゲール が看護師に求めた最も大切な資質の一つは、“Observe(オブザーブ)”でした。患者の小さな変化を見逃さず、その苦痛や不安を感じ取ること。その日本語訳をたどると、意外な場所に行き着きます・・・それは仏教です。

りんに島田健次郎(シマケン)が提示した明治の思想家 西周(にし あまね) が“Observe”に対応する言葉として用いた「觀察(かんざつ)」は、もともと仏教用語でした。

私たちは普段、「観察(かんさつ)」と聞くと、虫眼鏡を片手に何かをじっと見つめる姿を思い浮かべます。しかし仏教の「觀察(かんざつ)」は少し違います。「觀」とは、物事をありのままに見つめること。「察」とは、その奥にある心の動きや意味を感じ取ること。つまり「觀察(かんざつ)」とは、単に見るのではなく、「その人の世界に耳を澄ますこと」なのです。

考えてみれば、看護師が見ているのは血圧計の数字だけではありません。表情の曇り、返事の間、ため息の深さ、沈黙の長さ。患者自身も言葉にできない苦しみを感じ取ろうとしています。これはまさに仏教が長年磨いてきた「觀察(かんざつ)」の実践そのものです。西洋看護と仏教が出会った象徴的な回だったのです。

現代医療は目覚ましい進歩を遂げました。AIは画像を診断し、ロボットは手術を支援します。しかし、患者が抱く「なぜ私なのか」「この先どう生きればよいのか」という問いに耳を傾けるのは、今なお人間にしかできません。仏教の基本は一切皆苦のこの娑婆を、死や喪失、人生の意味と向き合いながらどのように生きるのかという実践的哲学であり、看護師は病や苦しみと向き合う専門家です。そして、日本における看護教育の原点をたどると、「觀察(かんざつ)」という仏教の言葉に行き着く。だからこそ看護と仏教の連携、すなわち「看仏連携」には大きな意味があります。

「目の前の人の苦しみに、どう寄り添うか。」

近代看護の原点を掘り下げていくと、そこには病院の白い廊下だけではなく、お寺の静かな本堂の風景もまた重なって見えてくるのです。

「看仏連携」、これからもひろめてまいります。

ごえんさん

ごえんさん

走井山善西寺第十五世住職。生命科学の研究者が尊いご仏縁により僧侶に転身。

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