【特集】コミュニティーナース「SUNシャインズ」が取り組む “健康おせっかい” とは?

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善西寺「MONZEN(もんぜん)」で毎月第2金曜日に開催している「つながりカフェ」。カフェで迎えてくれるのは、鈴木裕美さん、岡田正子さん、佐藤美佐子さんの3人から成る「SUNシャインズ」。それぞれ看護師、ケアマネージャーとしてのキャリアを活かし、“健康おせっかい”をモットーに来訪者の相談に乗ったり、小児がんの子どもたちのために「ガーゼ帽子を縫う会」を開催するなどの活動を行っています。

3人の共通点は「コミュニティナース」であること。コミュニティナースは、必ずしも看護師である必要はありません。コミュニティナースとしてどのような役割を持ち、活動をしているのでしょうか。SUNシャインズの皆さんにお聞きしました。

左から矢田住職、佐藤さん、鈴木さん、岡田さん

 

誰もが気軽に立ち寄れる「つながりカフェ」

ーー3人で「SUNシャインズ」というユニットを結成されているとお聞きしました。どのような活動をされているのでしょうか?

鈴木裕美さん(以下、鈴木):主な活動としては、善西寺の「MONZEN」で行っている「つながりカフェ」ですね。2021年の12月から毎月1回開催しています。カフェは10時から2時までオープンしていて、どなたでも自由に来ていただけます。近所の方がふらっと訪れてくれたり、矢田住職や私たちに繋がりのある方が参加してくれています。

岡田正子さん(以下、岡田):カフェでは、地域にあるお地蔵さんの前掛けや、小児がんの子どもたちのガーゼ帽子を縫ったりしています。一緒に針仕事をしながら会話を交わすことで、リフレッシュしてくださればいいなと思って。もちろんコーヒーを飲んでご自分の好きな本を読んだり、ゆっくり過ごしていただいたりするだけでも大丈夫です。

「つながりカフェ」で利用者とともに作ったお地蔵さんの前掛け

 

佐藤美佐子さん(以下、佐藤):私たちが医療職、介護職の従事者でもあるので、同業の方達が気軽に話せる場をつくりたいとも思って設けた場でもあるんです。職場では言えない、悩みや愚痴なども話せる場所があったらいいよねって。同じ経験を持つ私たちが聴き役になることで、従事者の方たちが元気になって仕事を頑張ってもらえたらと。

鈴木:訪問看護や介護の現場では、トイレに困ることもあるんです。利用者さんのお宅のトイレをお借りするのは難しいので、事前にコンビニやスーパーなどの場所を調べていました。ケアする側が困った時に立ち寄れる場所として、つながりカフェを利用してもらうことができたらと思っています。

地域の健康おせっかい役「コミュニティナース」

ーー皆さん医療職、介護職の従事者でもあるんですね。どのような経緯で3人で活動されるようになったのでしょうか。

鈴木:私は病院などを経て在宅看護に従事していたんですが、岡田さんと仕事上で知り合ったんです。私が訪問看護をしている方のケアマネージャーが岡田さんで。

鈴木さん

岡田:エンドオブライフ・ケア協会の勉強会に参加した際に、偶然同じグループになって。その時に鈴木さんと同じ患者さんを担当していることが判明したんです。しかもその2ヶ月後に、在宅医の先生たちが開催していた勉強会でまた一緒になったので、びっくりしました(笑)。

ーーエンドオブライフ・ケア協会では、どのようなことを勉強されたんですか。

鈴木:終末期(病気などの進行により、余命わずかになった状態)の方たちが過ごすホスピスの現場で培われた、患者さんとの関わり方を学びます。例えば「余命が短いならもう死にたい」「生きてても仕方がない」と死や病気による苦しみを持つ方に、どのようにコミュニケーションを取っていくのか。訪問看護をする上で必要な学びだと思って受講し、さらにそこで得た学びを人に伝えていく「ファシリテーター」という資格も取得しました。私以外の2人もファシリテーターの資格を持っているんですよ。

ーー佐藤さんとの出会いは?

佐藤:私は桑名市の地域包括支援センターで主任ケアマネジャーとして従事してるんですが、認知症の方やその家族の方が参加できる「認知症カフェ(オレンジカフェ)」を善西寺で開催したことがあったんです。それをきっかけにこども食堂など善西寺の取り組みに参加したり、お手伝いをするようになりました。そしたらある日、矢田住職から「鈴木さんという方がもしバナゲームというイベントを開催するから、佐藤さんも参加してみたら」と誘って下さったんです。

もしバナゲーム…人生の最後にどう在りたいか。そんな「もしものための話し合い(=もしバナ)」のきっかけを作るためのゲーム

佐藤さん

鈴木:私はエンドオブライフケア協会の講習会を通じて住職と知り合ったことで、「善西寺でワークショップをしてみませんか」と声をかけていただいたんです。そこに佐藤さんも参加してくれたんですよね。

ーー3人は「コミュニティナース」という共通点もあるそうですね。どのような活動なのか教えてください。

鈴木:看護師の矢田亜希子さんが「身近な家族の病気には気づけなかった」と言う経験から生まれた取り組みなんです。例えば地域のお年寄りとの何気ない日常の会話の中で「最近、ご飯食べれてる?」とか「よく眠れてる?」と声をかけ、その人の体調や心の不安などに気づけるようにする。そんな「健康おせっかい」をするような活動なんです。

https://www.jreast.co.jp/tokyomovinground/contents/people/132.html

佐藤:「人とつながりまちを元気にする」というコミュニティナースは、職業や資格ではなく実践のあり方です。関わりを持つ対象も子どもだったり、高齢者であったり、コミュニティナースそれぞれが思う活動ができます。看護師の資格がなくても、会社員でも住職でも、誰かの話を聞いて、その人がちょっと元気になって「また明日から頑張ろう」と思うようなことができれば、立派なコミュニティナースなんです。

岡田さん

ーー看護師でなくても、コミュニティナースとして活動できるんですね!

岡田:私は初め、2人からコミュニティナースについて聞いても、あまりピンと来ていなかったんです。でもコミュニティナースとして活動している方々と話している時に、「道路を掃除していた高齢者の方を見かけたので、一緒にお話しながら掃除していたんです」と言ったら、「それもコミュニティナースの活動なんですよ!」と教えて下さって。そういうことならできそうだなと思って、講座を受けてコミュニティナースになりました。

人生をともに楽しむ「SUNシャインズ」

ーーそこから3人で「SUNシャインズ」というユニットを組むことになったんですね。

鈴木:みんなのこれまでの活動も含めて共通点が多かったし、何より私たちみんな、キャンディーズ世代なんですよ(笑)。1人より3人の方がいろんな知恵も出し合えるし、一緒に取り組むことで楽しいことが3倍になるんじゃないかって。

佐藤:「3人だからSUN」「太陽のように光り輝く」という意味を込めて「SUNシャインズ」にしました。矢田住職がマネージャー役で、私たち3人は自称30歳メンバー(笑)。それぞれにメンバーカラーもあって、その色の屋台も持ってるんですよ。

鈴木:屋台があるだけでも「何かやってるよ」というサインになるし、楽しそうでしょ(笑)。つながりカフェがオープンしているときは、MONZENの前に並べています。

サンシャインズの3名とコミュニティナースとして活動する佐藤英代さん

ーーアイドルユニットみたいで、楽しそうですね!

岡田:私が働いている介護施設で利用者さんに、「SUNシャインズってユニットを組んだんだよ」という話をしたら「私達もグループ活動したい!」と「アジサイ」という名前の手芸クラブがつくられたんですよ。「アジサイの花は土壌によっていろんな色になる。歳を重ねてもいろんな色に染まりたいから」という思いで名付けられたそうです。

鈴木:素敵ですよね。自分たちがやりたいことをしていれば、周りの方にも楽しさが伝わっていくんだなって嬉しくなりました。これもある意味、コミュニティナースの役割なんですよね。

世代を超えたコミュニティを育む

ーーコミュニティナースとして活動してきて、印象深かった出来事はありますか。

佐藤:以前、終末期の男性の方が来訪されたことがあります。「終末期と宣言されているので、実家に帰りたい。けれど実家には90歳を超えた親と脳梗塞を患ったがいるので帰れない」と悩んでいて、すごく表情も暗くて。

岡田:でもお茶を飲みながら、色々とご自身の想いを話すうちに、笑顔を見せてくれるようになったんです。帰る時には、来た時よりも穏やかな表情をされていました。その後、これまではほとんど家から出ていなかったのに、地域のウォーキングのイベントにも参加されるようになったとお聞きしました。何かが解決した訳ではありませんが、話をすることで少しでも気分が軽くなってくれたのかな。

佐藤:善西寺のご門徒さんの中で、ご主人を亡くされて塞ぎ込んでしまった方がいらっしゃって。矢田住職に誘われて、つながりカフェに来てくれました。もともと趣味でパッチワークを縫うぐらい手芸が上手な方なので、お地蔵さんの前掛けやガーゼ帽子を縫って下さって…一緒に他愛もない話をしながら裁縫をしている間に今ではすっかり元気になられて、新しく参加される方の指南役として色々と教えてくださるんですよ。

利用者が先生になって「おひなさまを作る会」を開催

つながりカフェで作成したガーゼ帽子を三重大学附属病院に寄付

ーーただ「自分のことを話せる、聞いてもらえる」場所って、案外少ないですよね。利用者の方と話す時、どのようなことを心がけているのでしょうか。

鈴木:本当にさまざまな悩みを抱えた方がいらっしゃるので、中には私たちだけでは対応できないこともあります。でも決して、わかりませんとは言わないようにしています。「私ではわからないけれども、〇〇さんに聞いてみますね」と言葉をかけるだけで、受け取り方が全然違いますよね。私たちでは対応できないことも、他の方に聞いたら良い情報が入って来たり、新しいアイデアを出してくれるかもしれない。「できることをみんなで考えましょう」という考えの方がきっと、ハッピーになれますよね。

佐藤:強制しないこと、好きなことしてもらうこと、でしょうか。みんながそれぞれにここにいることを楽しんでくれたらOKなんです。縫い物がしたかったらしていただくし、話したかったら話す。カフェを利用される方がやりたいことがあれば、お手伝いしたいと思っています。

ーーSUNシャインズとして、今後どのような活動をしていきたいですか。

佐藤:つながりカフェが月1回の開催なので、もう少し回数を増やしたいですね。あとはコミュニティナースとして繋がった若い子たちと一緒に何か活動できたらいいなって。たまに、つながりカフェにも遊びに来てくれるんですよ。

鈴木:ちょうど子育て中の子もいるんですが、そういう子たちにもどんどんつながりカフェを利用してほしいなと思いました。ちょっと子どもを預けて買い物に行きたい、病院に行きたいけど子どもを見てくれる人がいない。そんなときにも気兼ねなく利用できる場所でありたいなって。

岡田:中には私たちのような活動や場づくりをしたいと思う子たちがいるかもしれない。第二のSUNシャインズみたいなユニットができたら嬉しいです(笑)。次の世代の力になりたいという気持ちも大きいので、仕事や子育てで悩んでいる方がここに来て悩みを話したり、愚痴をこぼしたりして、心が軽くなってまた何かに繋げていってもらえたらうれしいですね。

ミカミユカリ

ミカミユカリ

三重県津市出身のフリーライター。名古屋で美容師として働いたのちに、大阪で化粧品会社の広報、ベンチャー企業の採用広報を経てフリーライターへ。京都市のまちづくりや求人、企業広報のインタビュー記事、観光系サービスのSNSのコンテンツ制作などを担当。

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